悪夢の始まり(09/13)
 

 

最悪だ。彼女は唖然としたまま何も言わない。それほどショックな光景だったということか。

 

オーヴァンと抱き合っているように誤解されたかもしれない。そうでなくても、乱れた衣服と身体は

 

偽れないのだ。ここで淫らなことをし、快楽に溺れたのは事実なのだから。彼女の自分に対する

 

認識が穢れていく。もしかしたら、もう口もきいてもらえないかもしれない。

 

 

「・・・・・・ッ」

 

 

あまりの居た堪れなさに、乱れた衣服を押さえながらハセヲは駆け出す。時折バランスを崩したが、

 

それでも足早に彼女を通り過ぎ、扉をくぐった。すれ違う瞬間、彼女が何か言ったようだが、振り返

 

ろうとしたときにはもうログアウトしていた。

 

 

ハセヲは自分の部屋でただ一人、茫然自失する他なかった。M2Dを放り出し、ベットに倒れこむ。

 

あの絶頂の余韻はまだ身体に残っている。だが、それよりももっと熱く苦しいものが胸につかえていた。

 

 

――志乃さん――

  

 

一番見られたくない人に自分の羞恥を見られてしまったのだ。どうしてもっと抵抗しなかったのだろう。

 

どうしてもっと警戒しなかったのだろう。今更後悔しても何も変わらない。変わるはずもない。無意味な

 

自問自答と共に、涙が止め処なくこぼれ続けた。

 

 

 

もうあそこには戻れない。涙があふれる中、それだけが確信できた。

 

 

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