最悪だ。彼女は唖然としたまま何も言わない。それほどショックな光景だったということか。
オーヴァンと抱き合っているように誤解されたかもしれない。そうでなくても、乱れた衣服と身体は
偽れないのだ。ここで淫らなことをし、快楽に溺れたのは事実なのだから。彼女の自分に対する
認識が穢れていく。もしかしたら、もう口もきいてもらえないかもしれない。
「・・・・・・ッ」
あまりの居た堪れなさに、乱れた衣服を押さえながらハセヲは駆け出す。時折バランスを崩したが、
それでも足早に彼女を通り過ぎ、扉をくぐった。すれ違う瞬間、彼女が何か言ったようだが、振り返
ろうとしたときにはもうログアウトしていた。
ハセヲは自分の部屋でただ一人、茫然自失する他なかった。M2Dを放り出し、ベットに倒れこむ。
あの絶頂の余韻はまだ身体に残っている。だが、それよりももっと熱く苦しいものが胸につかえていた。
――志乃さん――
一番見られたくない人に自分の羞恥を見られてしまったのだ。どうしてもっと抵抗しなかったのだろう。
どうしてもっと警戒しなかったのだろう。今更後悔しても何も変わらない。変わるはずもない。無意味な
自問自答と共に、涙が止め処なくこぼれ続けた。
もうあそこには戻れない。涙があふれる中、それだけが確信できた。