悪夢の始まり(01/13)
 

 

「ひっ・・・・・・・」

 

 

ハセヲの細い身体がビクリと震える。なにしろ、傍らの男がいきなり自分の尻を掴んできたのだ。
 
一瞬、何が起こったかわからず、ただ呆然とするしかない。最初はちょっと擦れるくらいだったのが、
 
今はズボンの上からでも分かるくらい尻肉に指が沈み込こんでいた。これはさすがに気のせいでは済まない。
 
 
「・・・あの、手・・・手が・・・その・・・・・・」
 
 
ハセヲは小さな声で傍らの男――オーヴァンに訴える。だが無常にも、オーヴァンは無言のまま視線を
 
返してきだけだった。身長差により見下ろされ、ハセヲは思わず視線をそらす。まだ旅団に入って間もなく、
 
 
ただでさえ緊張しているのだ。ギルドマスターに無言で見下ろされれば、畏怖してしまうのは当然だった。
 
 
「んんっ・・・あっ・・・」
 
 
そんなハセヲの心境に構わず、オーヴァンはぐにぐにと揉むように、柔らかな肉を触ってくる。自分の顔が
 
どんどん赤くなっていくのが分かった。ここはマク・アヌの街中、目の前を行きかう人々が次々に通り過ぎ
 
ている。この醜態をいつ人に見られるか気が気ではない。クエスト屋で待ち合わせをしていただけなのに、
 
なんでこんなことになった。自分が少し早めに到着して、その後にオーヴァンがやってきて隣に立ったん
 
だよな。別に何を話すわけでもなかったけど、滅多にお目にかかれないあの人と一緒にいられてちょっと
 
嬉しかったりもした。このまま静かに、他のメンバーが来るのを待っていられればよかったんだ。なのに、
 
 
この状況はいったい何だ。
 
 
(やっ・・・揉まれてる)
 
 
ハセヲの身体が小刻みに震える。
 
 
(・・・・あぅっ、やだ、食い込んで・・・・)
 
 
今はただ、静かに、目的の分からない恥辱に耐えるしかない。いつのまにか膝が震え始めていた。初めて
 
体感する刺激に、身体は敏感に反応してしまうのだろう。男は思った。ひょっとしたら、自慰すらしたことが
 
無いのかもしれない。
 
 
「くく・・・・・・」
 
 
ハセヲの初々しい反応に、オーヴァンは初めて笑みを漏らした。あぁ、この男はおもしろがっているだけ
 
なのだ。冗談ならば度が過ぎているとハセヲの頭に血が上る。なんとかして止めなければ。再び顔を
 
 
上げ、今度こそ抗議しようとしたその時、オーヴァンの手がボトムスの中に侵入してきた。
 
 
「ひゃ、・・・あぁ!」
 
 
ハセヲの口から思わず悲鳴が漏れる。これ以上声を出さぬよう、慌てて口を自分で押さえこむ。一方、
 
声を出そうが出すまいが関係ないのか、オーヴァンの手は休まる気配がない。その指先は、尻を覆う
 
布地の感触を確かめているかのようにねちねちと動いていた。
 
 
「あぁ・・・んっ・・・・・・やぁ」
 
 
オーヴァンの指は次第に下りていき、内側にまで届こうかとしている。ハセヲの顔はもう真っ赤だ。
 
気を抜けば声が出そうになるが、羞恥心がそれを拒んでいるのだろう。必死に口を押さえ込む。
 
 
「んっ・・・んんっ・・・、・・・ひぃっ」
 
 
ついに、オーヴァンの指が内側に触れた。下着の上から軽く穴のまわりの肉をなで、下着を巻き込むよ
 
うに浅く、ゆっくりと、指を差し込んでいく。
 
 
「だ・・・だめ・・・ッ」
 
 
さすがにハセヲは抵抗し、その腕をつかんで制止する。しかし、体勢が悪いのか力が入らず、指の侵入を
 
許してしまった。痛みを覚悟し、目をきつく閉じるが、意外にも己の肉は指の侵入をすんなりと受け止めている。
 
 
「ッ!・・・ああっ・・・あう・・・・・・やぁ・・・ん・・・」
 
 
あまりの羞恥に涙が出そうになる。指の異物感が気持ち悪いはずなのに、なぜか身体は受け入れてしまった。
 
 
変なことをされて嫌なはずなのに、なんだか下が疼いているような気がする。これはいったい何なのだろう。
 
未知の感覚にハセヲはただ戸惑うばかりであった。
 
 
「・・・・・・・そろそろか」
 
 
「あっ・・・・・・」
 
 
オーヴァンがそう呟くと同時に、尻から手が離れた。ふと顔を上げてみると、少し先にメンバーの姿が見えた。
 
最悪な二人の時間は終わったのだ。短いようで、とても長く感じられた時間。幸い、あの恥辱は通行人にも
 
他のメンバーにも気づかれていないようだった。ハセヲはほっと息をつき、安堵する。素早く体勢を整え、心を
 
落ち着かせた。きっと大丈夫、普段どおりに振舞えている。このまま何事もなかったようにクエストに行って、
 
それで終わりだ。
 
 
 
しかし、これが悪夢の始まりであったことをハセヲはまだ気づいていなかった。
 
 
 
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